2022年12月26日月曜日

北九州アメリカ史研究会

 北九州アメリカ史研究会にて、以下のような発表を行います。九州での対面ですので、本州の方は難しいかと思いますが、万が一九州に来られる用事があれば、ぜひご参加ください。

第81回北九州アメリカ史研究会例会

1.日時:2023年3月11日(土)  13時30分~17時30分(予定)

2.開催場所:西南学院大学 学術研究所大会議室

テーマ:
「戦争から見るイギリス大西洋帝国」
報告1 森丈夫「ジェンキンズの耳戦争(1739-42)における北米植民地の軍事動員ーー兵卒の徴募をめぐる問題について」

   報告2 高橋毅「ジョージ王戦争期(1744-48)のマサチューセッツ植民地とイギリス海軍ー強制徴募をめぐる問題を中心にー」 


2022年12月10日土曜日

新刊紹介:先住民とアメリカ合衆国の近現代史

青土社から『先住民とアメリカ合衆国の近現代史』が出るそうです。
初期アメリカの研究者ではなく、運動家でもある歴史家で、昨年に出版されたNot a Nation of Immigrantsも話題を呼んだとのこと。ヨーロッパ中心主義的な歴史観の批判かと。
初期アメリカの先住民に関する優れた専門書も山のようにあるのに、少しでもいいから翻訳を出したいところです。次々に出るので溜まる一方です。今年の私の注目は、次の本。
Lori J. Daggar, Cultivating Empire

Capitalism, Philanthropy, and the Negotiation of American Imperialism in Indian Country


北西部を対象に、ミッションとセトラー・資本家、さらには先住民が交渉しながら、アメリカ帝国を建設していったとの内容。帝国建設における先住民のパートナーシップが何かが気になるところ。









次も同じような先住民と帝国の外交交渉の研究。時期は植民地時代で、いかに小規模な諸部族が帝国の拡大に対して持続性を保ったか。

Elizabeth Ellis, Great Power of Small Nations: Indigenous Diplomacy in the Gulf South



こちらはBen Franklin Worldでインタビューされていましたね。


こうした研究はなかなか日本では受け入れられがたいのかもしれないとも思わないでもないですが(もっとわかりやすい構図が好まれるような気がします)。

2022年11月30日水曜日

ジョアンナ・フリーマンのジェファソン時代の党派抗争に関する講演情報

気付くのが遅く、直前になってしまったのですが、フリーマンの興味深い講演があります。現在の建国期〜アンテベラム期の政治文化史の第一人者です。ぜひどうぞ。https://us02web.zoom.us/webinar/register/7716661957640/WN_7VcRNfFgQtC3K3dYI-xm4Q





2022年11月11日金曜日

今年に出た/出る初期アメリカ史の書籍

今年は、初期アメリカ史は奴隷制や奴隷制廃止の本が出版されていますが、なんと次のような本が出るそうです。

紀平英作『奴隷制廃止のアメリカ史』(岩波書店、2022年)

紀平先生どの辺りが学会動向のポイントかをわかっていらっしゃる感じ。しかしこのテーマは初期の研究者にやって欲しかった気もします。


ちなみに今年に日本で出た/出る本は私の知る限り次のようなものがあります。

スヴェン・ベッカート『綿の帝国――グローバル資本主義はいかに生まれたか (仮)』(紀伊國屋書店)

ケイトリン・ローゼンタール『奴隷会計 支配とマネジメント』(みすず書房)

アイラ・バーリン(落合明子/白川恵子訳)『アメリカの奴隷解放と黒人:百年越しの闘争史』(明石書店、2022年)

ベッカートは翻訳が研究者でないところが気になりますが、2017年ごろに、とある方面で翻訳を進めようとしたら、すでに版権が取られていたので、慎重に進めていたのだと思います(紀伊國屋はグローバルヒストリーものを連続して出しているので、その一環なのかも)。ちなみにA・G・ホプキンス『アメリカ帝国』も翻訳が出ますが、こちらは原著が膨大すぎていつになるかわからない見込みです。

(森)

2022年11月10日木曜日

訃報:鵜月裕典さん

 久々の投稿になりますが、訃報です。

19世紀前半の都市労働民衆史と先住民史で活躍された鵜月裕典さんがご逝去されたとのことです。ご冥福をお祈りします。鵜月さんの書かれた論文は、緻密で、実証的で、テーマも鋭利で、冷静だけど感情が込められているような研究で、私の世代にとっては最大の憧れの一人です。最初の論文「フィラデルフィア1844年暴動の歴史的意義」が出た時は、若手の論文なのに研究室がどよめいていたのを思い出します。その後に研究対象を移された先住民研究も、大きく分野を変え、また心に刺さるようなご論考でした。難病を患われているとは知っていましたが、残念でなりません。しかしご研究は、今でも初期アメリカ史にとって啓発的で励みとなる作品だと思います。ぜひこの機にご研究が読まれることを期待します。

https://rikkyo.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=1209&item_no=1&page_id=13&block_id=49

『不実な父親・抗う子供たち:19世紀アメリカによる強制移住政策とインディアン』http://www.bokutakusha.com/books/2007/4.html









(森)

2022年9月23日金曜日

ニューヨークタイムズのペッカ・ハマライネンの記事

 9月にペッカ・ハマライネンの新著『先住民の大陸』が出版されるということで、ニューヨークタイムズで特集記事が掲載されました。

https://www.nytimes.com/2022/09/20/arts/indigenous-continent-pekka-hamalainen.html 

 ハマライネンはコマンチ帝国やラコタに関する非常に優れた研究を行なったことで知られる初期アメリカ先住民史の最重要な歴史家です(テイラーの『先住民vs帝国』の中西部の情報は多くハマライネンが情報源です)。フィンランド人という点も興味深いですが(Max Edling=スウェーデンなど、なぜか最近の初期アメリカ史は北欧の人が多い)、中西部史全般について従来の学説を大きく転換した第一人者の一人であることは間違いないありません。そのハマライネンがヨーロッパ人の北米到来以後の400年を論じたのが本書で、非常に注目すべきでしょう。

https://wwnorton.com/books/9781631496998

  ニューヨークタイムズの記事は、ハマライネンの本に限らず、先住民史ひいてはアメリカ史全体の見直しに関わるもので、非常に刺激的な記事となっています。研究者の批判もしっかり載せていて、さすがという感じです。以下、拙訳を載せておきますので、興味のある方は是非ご覧ください。セトラーコロニアリズムについてもハマライネンは触れています。元の記事は写真や絵も出てくるので、お時間のある人は是非そちらを。

(森)

ニューヨークタイムズ、2022920

 

一人のフィンランド人学者が、われわれがアメリカ史を見る目を変化させることを期待している

 

『先住民の大陸』でペッカ・ハマライネンは、先住民と先住民のパワーを中心に置き、アメリカ史のグランドナラティブを転換させることを考えている。

                     ジェニファー・シュウェッスラー

                     By Jennifer Schuessler

 

アメリカ人ならば、リトルビックホーンでアメリカ軍を撃退したラコタの戦士、クレイジー・ホースや、ネズパースの指導者で、強制移住に対する雄弁な抗議が今でも名高いチーフ・ジョセフの話を知っているであろう。

しかし、どれほどの人が1680年にスペイン人をニューメキシコから追い出す反乱を率いたプエブロの宗教指導者、ポパイPo’payの話を知っているだろうか。あるいは、1710年にペンシルベニア総督と巧みに交渉し、入植者殺害の罪で訴えられた部族民の命を助けたショーニーの首長、オペカOpekaはどうだろうか。

彼らの物語は、フィンランドの歴史家ペッカ・ハマライネンの圧倒的な新著『先住民の大陸:北アメリカをめぐる壮大な戦いIndigenous Continent: The Epic Contest for North America』に掲載されている多くの物語の一つである。そして、彼らは瞬間的に表舞台に現れるものの、ほとんど脚注には記載されることがない。

リバーライト社から火曜日に出版された『先住民の大陸』が目的としているのは、先住民族を犠牲者としてではなく、歴史の流れを大きく形作る強力なアクターとして描き、アメリカ先住民――そしてアメリカ人の――歴史の物語を書き換えることに他ならない。

コマンチやラコタに関して高く評価されている歴史書を執筆したオックスフォード大学のハマライネン教授は、先住民が銃、病原菌、資本主義の猛威の犠牲になるのは避けがたいという「(消えゆく)運命にある」インディアンというフレーズに異議を唱えた最初の学者というわけではない。しかし、彼はこの議論をさらにおし進めている。

ヨーロッパ人入植者とアメリカ先住民の対立は、「4世紀にわたる戦争」であり、「インディアンがしばしば勝利した」と彼は書く。

 『先住民の大陸』は、著名な歴史学者からの推薦も得ており、ニューヨークタイムズ誌のベストセラー『1619プロジェクト』や、デヴィッド・グレーバーとデヴィッド・ウェングローの『あらゆるものの夜明け:新たな人類史』のような、既存のパラダイムを打ち破る本となることを目指している。

ジョージア大学の歴史学者であるクラウディオ・サントは、「ペッカは、初期アメリカ史のグランドナラティブの再構成に挑戦している、小規模であるが、現在大きくなりつつある研究者グループの一人である」とEメールで教えてくれた。そして、サントによれば、多くの読者にとって、「最も驚くべき発見は、一見して決着したかと思われる大陸の征服が、決してそうではなかったことであろう」と言う。

それでも、ハマライネンの大胆な主張は、証拠、解釈、強調点をめぐって議論を巻き起こす可能性が高い。そして、この本の背後には、もう一つの危うい問題が横たわっている。誰が、どのように先住民のアメリカの物語を書くべきなのであろうか?

一見したところ、オックスフォード大学で教鞭をとるフィンランド人学者は、その候補者らしくないように見える。先月、ヘルシンキ郊外の別荘からビデオインタビューを受けたハマライネン氏(55)は、多くの人と同じように、幼少期に本や映画で初めてアメリカ先住民に出会ったことを語った。彼は、何かがおかしいと感じたという。

「西部劇はアメリカ先住民を描くときに、とても恐ろしく描くのです」「ここで何が起こっているのだろうか不思議でした」と語る。

彼の最初の著書『コマンチ帝国』は、1750年頃から1850年頃まで南西部を支配していた(20世紀の大半においてハリウッドの西部劇に登場する)が、比較的研究されていなかった遊牧民集団について、膨大な調査に基づく驚くべき新解釈を提示した。2009年に出版されたこの本は、高い評価を得るとともに、専門の歴史家に贈られる最も権威ある賞の一つであるバンクロフト賞をはじめ、数々の賞を受賞した。当時、ハマライネンは、いわゆる「ニューインディアンヒストリー」を生み出している学者たちの一人であった。以後、この分野は爆発的に広がり続けている。

特に植民地時代のアメリカに関しては、アメリカ先住民をアクターとすること、また問いとすることがますます研究に織り込まれるようになっている。今日では、初期アメリカの歴史家は、ヨーロッパ人入植者と先住民との複雑な交流・交渉に焦点を当てると同時に、初期のヨーロッパ系アメリカ人の歴史叙述において、いかに先住民のコミュニティが叙述から排除され、「消えゆく」インディアンという神話が作り上げられたかを論じている。

このように先住民の歴史が主流となっていくことには、論争がないわけではない。近年では、知に関する西洋的様式と先住民的様式の対立の妥当性について、また歴史家が現代の先住民コミュニティと協議する義務があるかどうかについて、激しい論争が起こっている。

ラトガース大学の歴史学者でラコタ/ダコタ出身のジェームソン・スウィートは、「あらゆるバックグラウンドの人々が先住民の歴史を書くことができる」とする。しかし、彼はまた、1960年代と70年代の「レッド・パワー」運動から発展した「先住民研究」の幅広い分野が有している政治的な意義についても重視する。「私たちはこの分野を定着させようとしているのです」とスイートは言う。「これは先住民を顕微鏡の下に置くのことではありません。むしろ主権を保持するといった目標に向かって活動することで、人々を教育することなのです」と付け加える。

ハマライネンは、彼の意図とは別かもしれないが、しばしば高度に専門的な膨大な学術文献を統合しつつ、緻密なアプローチを取る(70ページ以上に及ぶ膨大な脚注に「死にそうになった」と彼は言う)。

本書の読者は、ボストン大虐殺や合衆国憲法といったおなじみの出来事にはほとんど出会わない。また本書では条約や法律に関する分析もあまり行われていない。その代わり、重要なテキストは地図(先住民とヨーロッパ人の両方)である。ハマライネンは、地図は、19世紀になっても「圧倒的で根強い先住民のパワー」によって支配された広大な大陸に対する植民地支配権がいかに脆弱であったかを示していると主張する。

ハマライネンは、ラコタとコマンチに関するこれまでの著書から、馬上での戦いの蹄鉄を打つような描写を含む、多くの材料を用いている。同時に本書では、北東部、ヴァジニア、フロリダ、中西部の先住民に関する研究を綜合している。そして例えばイロコイ(またはHaudenosaunee)連合については、「合衆国よりも歴史的に古く、中心的な存在」と表現するのだ。

ハマライネンは、特に17世紀末の「喪の戦争mourning war」に衝撃を受けたと言う。近年では、複数の学者によって、この戦争は、毛皮貿易のシェアを拡大するためではなく、ヨーロッパ人との接触による天然痘の破壊から立ち直ることを目的として開始されたと考えられている。Haudenosauneeは近隣の部族を攻撃し、ある部族は吸収し、また別の部族は西部へと押し出している。このことをハマライネンは「初期アメリカ史における最初の大規模な西部拡大」と挑発的に呼ぶのである。「一見、盲目的な暴力のように見えます」「しかし、そうではありません。これはスピリチュアルな暴力なのです。そして犠牲者の多くはイロコイの構成員となったのです。イロコイは他の部族をイロコイにするために戦争をしたのです」。

先住民とヨーロッパ人との対立について、ハマライネンは、植民者による暴力的な攻撃は、強さではなく弱さのあらわれであると繰り返し主張している。1890年にウーンデッドニーで約300人のラコタが虐殺されたことさえ、「アメリカの弱さと恐怖のあらわれであった」と彼は断言する。

こうした主張は、大げさであったり、極端に軍事的な対決にフォーカスして(※他の面を矮小化して)いると感じる人もいるかもしれない。『ウォールストリート・ジャーナル』紙の書評で、歴史家のキャサリーン・デュヴァルは、ハマライネンが先住民の歴史を「先住民の男性がヨーロッパ系アメリカ人の男性と戦うという壮大な物語」に仕立て上げ、先住民の行動が女性によって維持されている親族ネットワークに組み込まれていたことについてほとんど触れていないことに疑問を呈している。

そして、1890年代であっけなく幕を閉じた「先住民の大陸」は、大きな疑問を残したままである。この歴史は現在とどのようにつながっているのだろうか?

 この問題は、現在、他の研究者がより正面から取り組んでいる。来春出版予定の、同じく圧倒的な統合的歴史書である『アメリカの再発見:先住民とアメリカ史の解体The Rediscovery of America: Native People and the Unmaking of U. S. History』において、イェール大学の歴史学者ネッド・ブラックホーク(ウエスタンショーショーニ)は、物語を21世紀へと延長するとともに、おなじみの歴史的エピソードをひっくり返している (ある章では、ブラックホークが言う「アメリカ独立の先住民的起源」が語られている)。『先住民の大陸』の草稿を読んだブラックホークは、ハマライネンについて「アメリカ初期西部史の重要な歴史家である。そして彼は誰よりも騎馬技術の問題を研究している」と論じる。「ただ、この本が行なっている通時代的な叙述は、あくまで限定されたものに過ぎない」「特に、アメリカ先住民主権と生活の中心である法律や政策に関する多くのことをしばしば等関視している」とブラックホークは言う。

『先住民の大陸』はもう一つ、物議を醸しそうな概念を使っている。「帝国」である。ハマライネンはコマンチとラコタに関する著書で、これらの部族国家を、「準植民地主義」とでも言えそうな、他の先住民を押しのけ、しばしばヨーロッパ人入植者すら支配したアグレッシブな拡張主義勢力として特徴づけている。

2020年に『ラコタ・アメリカ』が登場したとき、一部のラコタの学者は、ヨーロッパの征服と道徳的に同等としている、あるいはヨーロッパの征服を正当化しているとして、「帝国」という枠組みに異議を唱えた。ラトガース大学のスウィート教授は、The Journal of the Early Republicの書評で、「ヨーロッパ人のセトラーコロニアリズムに対して無罪放免を与える感じがする」と述べている。

 「セトラーコロニアリズム」は、ここのところ、先住民研究そしてそれ以外の分野でも、(論争があるにせよ)広く浸透してきた概念である。しかし『先住民の大陸』にはほとんど登場しない。

 「セトラーコロニアリズムはもちろん起こったことだ」とハマライネンは言う。だが「この用語は少し不用意に使われることがある」。歴史家は、すべてをこの題目の下に置くのではなく、「先住民のコミュニティが対面し、対応せねばならなかった幅の広い植民地的関係により注意を払わならなければならない」と述べる。

帝国という言葉については、そのような「(ヨーロッパ帝国と)共振する力の構造」が異なる時代や場所でどのように発生したかを考えることは、「道徳的に同等だとすることとは同じではない」と言う。

今日、北米には500を超える先住民ネーションが存在する。エピローグでは、オジブワの作家デービッド・トリューの主張が引用されている。1776年以降、ある意味でアメリカは「よりインディアンに」なったのであって、それ以下ではない、と。

  「すべてはこの400年にわたる戦争を振り返るところに始まる」とハマライネンは言う。そして持続的な先住民の抵抗の力にも。「読者には、この歴史の重みを、「先住民の変化する力、そして戦う力」とともに理解してほしい」。


2022年9月14日水曜日

セトラーコロニアリズムと初期アメリカ

  先日出た『アメリカ史研究』45号に掲載された石山徳子さんの「人新世のナラティブとアポカリプスの日常」が射程の広い話だと話題ですが、そこでのキーワードが「セトラーコロニアリズム」です。これはアメリカでも流行している概念で、今年のOAH大会では大会の趣旨にも掲げられ、幾つもパネルが組まれていました。セトラーコロニアリズムは、オーストラリアの人類学者パトリック・ウルフが唱えた概念で、新しい土地に入って来た入植者が、その土地に先住していた人々の存在を抹消し、不可視化していくプロセスであり、そうした歴史から生まれる人々の思考と社会の構造を指す」とされています。現在、アメリカ史の発展を批判的に見直そうという潮流の代表格となっています(週末のアメリカ史学会でもパネルが組まれます)。

 しかしながら、やや初期アメリカ史、特に植民地時代史では歓迎して受け入れられているとは言えないように思います。2019年にWilliam and Mary Quatrterlyでセトラーコロニアリズムの特集が組まれた時も、巻頭言でジェフリー・オストラーとナンシー・シューメイカーは、初期アメリカ研究には同概念を用いた研究はあまり見られず、研究者の同概念の受け入れは「緩慢」ないしは「戸惑い」だと言います。こうした姿勢は批判されるかもしれませんが、ただこれは初期アメリカ史(特に植民地時代史)が保守的だからというわけでは決してなく、この分野特有の事情があります(ちなみに建国期では大いに重視されています)。

 すでに植民地時代史では、公民権運動を経て、1970年代にかなりヨーロッパの植民活動を「征服」として先住民の社会を一方的に破壊していく過程だとする主張がなされました。その筆頭はフランシス・ジェニングスですが、そのほかW.T.へーゲンなどによっても強く主張されました。彼らの議論は日本でも富田虎男さんなどによって紹介され、翻訳もかなりなされています。その結果、ジェニングスの使っていた「(入植者による先住民の)清掃(エスニック・クレンジング)」という言葉は、『「他者」との遭遇』(青木書店)のような概説でも使われるようになりました。初期アメリカ史では、すでにある程度「セトラーコロニアリズム」は浸透していたわけです。むろんだからこそ顔を背ける研究者が多いことをジェイムズ・メレルらの先住民史研究者は厳しく批判しましたが。

 しかしながらジェニングスらの議論にはバーナード・シーハンやジェイムズ・アクステルらの先住民史研究者からも、やや断罪論になっていて、ヨーロッパ人−先住民関係の実態や先住民の主体性を丁寧に見るべきではないかとの批判もなされました。むろんこうした議論にも批判はされましたが、1980年代から(ジェニングスも重要な役割を果たします)90年代には先住民はヨーロッパ人の侵略で一掃されたのではなく、新たな集団形成(エスノジェネシス)やヨーロッパの技術・思想の吸収、外交戦術の駆使などによって、少なくとも独立までは従来考えられていた以上に自立を確保していたと論じられるようになります。有名なリチャード・ホワイトの「ミドルグラウンド」は、こうした先住民のレジリエンスを前提にして、ヨーロッパ人との関係性を見直す概念であるわけです。こうした潮流が発展・定着したのが現在の状況であり、ゆえに研究者は外部から入ってきたセトラー・コロニアリズムに対して「戸惑って」いるのです。実際、上記のWilliam and Mary Quatrterlyの特集の巻頭言でも、オストラーとシューメイカーは、入植者の暴力はあるとしても、実証的な研究に基づく「近年の初期アメリカの先住民史と入植者ー先住民関係史は、いかに先住民諸政体の政治的・経済的パワーが持続していたか、またヨーロッパ人の北アメリカ大陸支配の進行がいかに緩慢で、脆いものであったかを強調している」と述べています。こうした認識には、厳しい対立や緊張も含みながら、長きにわたって発展した初期アメリカ史の学問的状況が背景にあるわけです。

 ただし上記の巻頭言でも書かれているように、セトラーコロニアリズムの問題提起は深く受け止める必要があることは間違いありません。実際、ミドルグラウンドがヨーロッパ中心主義的で、もっと暴力や対立に目を向けるべきという批判も以前からなされています。おそらく、植民地時代について研究者の中で最も真剣にセトラーコロニアリズムの問題提起と向き合ったのは、ダニエル・リクターの次の論文だと思います。ぜひお読みください。

Daniel K. Richter, “His Own, Their Own: Settler Colonialism, Native Peoples, and Imperial Balance of Power in Eastern North America, 1660-1715,” in Ignacio Gallup-Diaz ed.,
 The World of Colonial America: An Atlantic Handbook, Routledge: New York and London, 2017.






 この表紙は1710年にイロコイ五部族連合の代表が(実態はマヒカンなどの小部族の代表)軍事協力の要請でイギリスを訪問したときのもの。イギリスでは彼らは世間に狂騒を起こし、数多くのイラスト、絵画が描かれました。コリーは『虜囚』でこの絵の分析を行なっています(植民地人=セトラーとイギリス人=帝国との先住民認識の違い)。

(森)

2022年9月4日日曜日

文献紹介:軍事からみた大西洋帝国史

 

 森先生より、先住民研究の最新知見と『先住民VS帝国』書評から、「海」の歴史と「陸」とが交錯する歴史像を提供いただきました。

 諸ヨーロッパ列強の植民者勢力、そして先住民諸部族の共存とせめぎ合いは、「陸」のうえのみならず「海」の上でも行われていたというのに驚きます。先住民たちは独自の貨幣流通のみならず、毛皮交易の交換目的で貿易市場に参入しようとし、さらには操船技術を学んで航海にでようとしたとは…。どうしても帝国ないしヨーロッパ列強を主役とし、先住民を「征服される側」のマイノリティとして捉えてしまいそうになる自己認識を改め、「Vast Early America」を多様な主体が共存する場として捉えるべきだと、示唆をいただける内容でした(このあたりの研究史を勉強する際、森先生書評と鰐渕先生の「ポスト共和主義パラダイム期」論文も大変参考になりました)。

 こういった先住民研究とは離れてしまいますが、同じ海の視点ということで、今回は「軍事からみた大西洋帝国史」に関する二次文献を一つ紹介させていただきます。自身の整理のためにも前提から書きましたが、皆さんご存知のところも多いと思うので、間違っているところや足りない視点があれば色々ご指摘いただければ幸甚です。

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 さかのぼること約300年前、名誉革命を経て議会優位の体制を築き、借金と税金によって巨額の戦費を捻出可能にして、他列強に比べると先駆的に「財政軍事国家」ブリテンは、他国よりもスムーズに戦争を遂行できたとされています。当時ブリテンが優先的に投資したのは、いわずもがな海軍です。船のドッグや駐屯基地など、巨額の戦費を背景に次々と整備されていきます。この海軍こそが「第一次帝国」を商業面・軍事面をささえた「腱」であるということは、周知の通りだと存じます。

 しかし、こういったインフラ整備だけでは軍艦は動きません。荒波の中で揺れに耐えながら、帆船のトップセイルを操って目的地にたどり着くには、熟練したプロの船乗りの技術が必要不可欠でした。

 そこでブリテンが依存したとされるリクルート制度が、強制徴募(impressment)です。そのリクルート方法は、プレスギャング(強制徴募隊)とよばれる海軍の士官数人が、港湾都市の酒場や近海の船上で、無理やり船の漕ぎ手となりえる船乗りたちを誘拐していくというものでした。その過程で、ギャングたちによる強引な徴募、あるいは船乗りたちに抵抗など暴力は絶えなかったといいます。



 歴史学ではかつてマイナーとされてきた軍事にかかわる研究ですが、1980年代以降、イギリスの学会では海軍行政史の大家N. A. M. ロジャーらによって、「新しい海軍史」が立ち上げられると、社会史の流行とも相まって、「軍隊と社会」を探求する研究が勃興していきます。そのなかで、この強制徴募も研究されてきました。

 ちなみに日本語圏では、このロジャーの研究を引きながら、大家川北稔さんが先駆的に『民衆の大英帝国』のなかでこの強制徴募を詳細に論じています。この叙述でブリテン海軍のイングランドにおける強制徴募をご存知の方も多いと存じます。



 しかしながら、海軍が船乗りたちを誘拐したのは、本国を出航するまえにイングランド沿岸だけではありませんでした。航海法の「遵守」を目指しつつ、他国の軍隊や私掠船、はたまた海賊から商業航路を守りつつ、さらに戦争のために軍艦の人員を確保するには、とくに大西洋をまたぐ「帝国戦争」においては本国のみの徴募では不十分でした。そこで海軍は北米の港湾都市や西インド諸島の海上でも徴募を行ったといいます。それに対して、各地で船乗りたち民衆が立ち上がり、反強制徴募暴動を数々引き起こしました。

 こういった北米や西インドでの事例は、従来のイギリス圏での研究では十分にとりあげられず、アメリカ史においてはレミッシュやレディカーなど労働運動史の抵抗の原因として前景化されることがほとんどでした。 

 そういった諸先行研究の成果をバランスよくまとめ上げた恐ろしいほどの実証研究がDenver BrunsmanによるEvil Necessityです。ブランズマンは、強制徴募の制度の整理(中世のマグナカルタの話からはじまります)に力点を置きつつ、西インド、北米、イングランドの三地域を中心に、大西洋圏の諸暴動や風刺画などの事例も取り上げながら「制度・慣習の構築過程」を描くことで、ブリテン大西洋帝国史の観点から軍事史と、文化史・暴動史を接合しました。

          


 ブランズマンは、当時の知識人たちが「自由」を標榜した帝国こそ、強制徴募という「必要悪」に支えられていたとアイロニックに描き、この制度こそ奴隷制や年季奉公人制度と並ぶ「帝国の矛盾」をあらわしたものだと主張しています。

 社会史や文化史の蓄積を活かしつつ、「全体像」(あくまでブリテン帝国世界だが)を提示しようとする姿勢はリン・ハントの主張する「下からのグローバル・ヒストリー」を彷彿とさせる手法です。個人に飽き足らず、強制徴募に関わる詳細な実態をひとりでまとめあげた本書の成果には脱帽です。

 北米、イングランド、西インドにのみ足らず、カナダでの事例なども取り上げるブランズマンですが、単に実証を重ねるだけでなく、強制徴募という「制度」をダイナミックに描き、大西洋の各地域において、現地の事情にあわせた「諸強制徴募文化impressment cultures」が形成される過程を描いているところも評価できます。

 さらにいえば、ブランズマンの著作は、暴動史ないし民衆運動史を広いパースペクティブの中に置いたという点でいえば、柴田三千雄さんの『近代世界と民衆運動』を彷彿とさせます。ブランズマンの中の反強制徴募暴動の理解は、徴募命令書(press warrant)にもとづいた海軍士官による強制徴募の日々の実践が船乗りたちとの「合意」のもと「諸強制徴募文化」を構築していき、お互いの「合意」から外れた徴募が行われたときに発生するというものです。この理解を西インド、北米、イングランドの三地点の強制徴募実践と暴動の事例から論証しています。

 例えば私がもっとも面白いと感じた事例のひとつは、西インドにおける「徴募の慣習」です。イングランドでは、強制徴募が商業活動に支障をきたさないよう、アウトバウンド船(これから航海に出る船)ではなく、インバウンド船(貿易を終えて帰港する船)のみ徴募するよう、上官からプレスギャングに命令書が下されます。この徴募の文化は北米にも同様に見られるのですが、なんとジャマイカなどの西インド諸島では事情がうって変わって、逆にアウトバウンド船のみの徴募に限られます。

 それはなぜか。西インド諸島といえば、川北さんの『工業化の歴史的前提』などで有名なように、大西洋帝国を支えたプランテーションが存在します。これにより、ジャマイカやバルバドスに帰港する船のおおくが「奴隷船」だという事実が関係していきます。なんと海軍は、アフリカからの船旅を終えて、貴重な労働力である「積み荷」をのせた船から徴募しないよう、インバウンド船の徴募を禁止したのです。

 また、西インド特有の慣習として挙げられるのはもう一つ、「私掠船からの徴募の禁止」です。薩摩真介さんの研究で指摘されているように、西インド諸島は財政軍事国家の軍事的経済的「腱」(商船の保護、敵船の攻撃など)として私掠船が機能している場所でした。だからこそ海軍も私掠船に気を遣いながら徴募を行う必要があり、こういった慣習が生まれます。西インドでの私掠船の影響力はとても大きく、この慣習から外れると、私掠船の乗組員と現地勢力が結託して、激しい反強制徴募暴動(海軍士官を誘拐して軟禁するなど)を引き起こしました。

 このように、奴隷制と強制徴募がうまく「共存」しながら、現地勢力とのせめぎ合いのなかでうまく慣習を構築しながら、枯渇した労働力を暴力や強制のもとに捻出し、なんとか保たれていた帝国の歴史像は、「自由の国ブリテン」を標榜していた知識人たちの言説と比べると非常に皮肉なものです。

 一見「完璧」とも思えるこの研究と日々対峙しているのですが、すでに近年の研究で指摘されている論点は①アメリカ革命史との接続、②個人の視点の不足(扱う史料の問題でもある)の二点です。ブリテン帝国史、法制度史の観点について、独立との連続性や「下からの視点」を大事にする研究者たちから指摘されています。

 この2点に取り組んだ研究もすでに存在するのですが、今一度の論点は大西洋帝国とアメリカ革命の関係だと考えています。果たして、大西洋帝国はアメリカ合衆国史の前史でよいのか。国民国家の制度が当たり前となった今現在から遡及的に「解釈」をすることしかできないわれわれの限界を踏まえつつも、独立以前の世界を考えることはいまだに重要ではないでしょうか。この点に関して、史学史的な視点でいうと、ブランズマンの単著と同年にオックスフォードのシリーズでBritish North America in the Seventeenth and Eighteenth Centuriesが刊行されているのも重要だと思います。

 これに加え、森先生や鰐渕先生のお話も踏まえると、先住民と軍事の関係を踏まえて強制徴募観連の行政史料を読みなおすと何かみえてきそうな気がしています。例えば1696年のマサチューセッツMaritime関連の行政文書では、海軍が「indian youth」と強制徴募された住民とを軍艦に閉じ込めていたことに関する書簡が、マサチューセッツ行政から海軍士官宛てに出されていました。

 ちなみにブランズマンは法制史的な観点の「イギリス化」論で有名なJohn Murrinの影響を受けている(マリンはブランズマンの師匠!)ようで、中近世イングランドと初期アメリカの制度的連続性を踏まえている点が面白いです。遠藤寛文先生も論稿で触れられていますが、2010年の論文では、建国期アメリカにおいて、米英戦争中にブリテン海軍がアメリカに住む人々を強制徴募しようとするから、それに対抗して政府は「アメリカ市民権」を創出した…といった議論を展開しており、アメリカ合衆国成立の時期、ないしそのナショナリズムないしネイションの成立過程を軍事的折衝の現場と制度の問題から論じる視点が面白いです。

 近年の日本語圏ではグローバル・ヒストリーの影響もあり、「脱西欧史観」の風潮のなかで西欧からみた「東」(中・東欧やアジアなど)との関係を考える研究が隆盛しておりますが、ユーラシア大陸や地中海における諸列強の戦争の時代を「Vast early America」の戦争から見直すことは依然として重要だと思います。これは日本の西洋史学会では意外と見過ごされているので、高校で「歴史総合」「世界史探究」を教えようと志している私としては、西欧を「両端」からはさんで脱構築していくような視点を忘れないようにしたいところです。

 ブランズマンも、「イギリス化」論集も、オックスフォードも、どれも重厚な著作で読むだけで修士2年が終わりそうな今日この頃です…。

 先日、中澤達哉先生の集中講義とシンポジウム(礫岩国家と「王のいる共和政」に関するお話)を拝聴したのですが、中澤先生や森先生のお話を聞いていると、どうもブランズマンの著作は複合国家・礫岩国家論と接合可能性がありそうです(アメリカやイギリスの学会ではもうそのことは自明となっていて、現場での交渉の議論になっているのかもしれませんが)。

(九大修士2年 高橋)

主要英語参考文献

Brunsman, A. D. 2007: “The Knowles Atlantic Impressment Riots of the 1740s”, Early American Studies, Vol. 5, No. 2, pp. 324-366.

Brunsman, A. D. 2010: "Subjects vs. Citizens: Impressment and Identity in the Anglo-American Atlantic", Journal of the Early Republic, 30, pp. 557-586.

Brunsman, A. D. 2013: The Evil Necessity: British Naval Impressment in the Eighteenth-Century Atlantic World, Charlottesville.

Foster, S. (ed.) 2013: British North America in the Seventeenth and Eighteenth Centuries, Oxford.

Gallup-Diaz, I., Shankman, A., & Silverman, D. J. (eds.) 2015: Anglicizing America: Empire, Revolution, Republic, Pennsylvania. ⇦ブランズマンの師匠マリンへの献呈論集です。ブランズマンほか、プランテーションの制度的前史としてイングランドの徒弟制やservantを位置づけている論稿なども面白いです。マリンの弟子はシルバーマンやプランクなど、並々ならぬ面子が集まっています。

Lemisch, J. 1968: “Jack Tar in the Streets: Merchant Seamen in the Politics of Revolutionary America”, The William and Mary Quarterly, Vol. 25, No. 3, pp. 371- 407.

Rediker, M. & Linebaugh, P. 1990: “The Many-Headed hydra: Sailors, Slaves, and the Atlantic Working Class in the Eighteenth Century”, Historical Sociology, Vol. 3, Issue 3, pp. 225-252.

Roger, N. A. M. 1986: The Wooden World: An Anatomy of the Georgian Navy, London.

Roger, N. A. M. 2011: “From the ‘military revolution’ to the ‘fiscal-naval state’”, Journal for Maritime Research, Vol. 13, Issue 2, pp. 119-128.

Rogers, N. 2007: The Press Gang: Naval Impressment and its Opponents in Georgian Britain, London.

⇦触れませんでしたが、「暴力」の観点から強制徴募についてまとめ、海軍行政史に収斂しがちで静態的なロジャーの視点を批判したものです(名前が一緒でややこしい)。大西洋の暴動について触れている章もあります。ブリテン史の学会だとこちらが有名なようですが、まだ位置づけとブランズマン研究との差異が整理できていません(泣)。


2022年8月22日月曜日

書評:アラン・テイラー著、橋川健竜訳『先住民vs帝国 興亡のアメリカ史ー北米大陸をめぐるグローバル・ヒストリー』

 『西洋史学』273号(2022)にアラン・テイラー著、橋川健竜訳『先住民vs帝国 興亡のアメリカ史ー北米大陸をめぐるグローバル・ヒストリー』(ミネルヴァ書房、2020年)の書評を書きました。思い切った訳のタイトルにしたと思いますが(原題はAmerican Colonies:A Short Introduction)、内容の広がりと現在の学会の動向をとらえた意義あるタイトルかと思います。それにしても『西洋史学』の今号の書評の充実っぷりはすごい。。

興味のある人はコメントください。PDFをお送りします。

(森)


2022年8月11日木曜日

文献:先住民と海の歴史

 高橋さんが船乗りの史料と新しい文献をご紹介してくださって大変に有益で、依然として海の歴史は盛んな領域だとわかります。猛暑の中、海の歴史を考えると多少涼しくなるような・・・

先住民関係でも、ここ数年で何冊か先住民と海洋世界に関する本が出されています。従来から捕鯨に関しては研究がありましたが、特に北東部の先住民が盛んな沿岸通商を行なっていたり、海上で軍事力を行使していたことが明らかになっています。ニューイングランドでは、17世紀までには、寒冷で穀物の取れない最北端(現在カナダの)ペノボスコットの先住民とNE南部の先住民の間で毛皮と穀物を交換する地域間分業も成立していました。他方、ノヴァ・スコシアのミクマクはメインの先住民を攻撃し、壊滅に追い込んでいます。

下記の本は、そうした先住民の世界にピューリタンは入って来たと想定して、従来の歴史像を見直すものです。

Andrew Lipman, The Saltwater Frontier: Indians and the Contest for the American Coast 



リップマンのThe Saltwater Frontierは、NE南部における通商と漁業を中心とする先住民の海洋活動とヨーロッパの進出を扱う地域史。「フロンティア」という言葉も、複数の文化の接触や対立をの場を意味していて、先住民間/ヨーロッパ人間の複雑な関係性を描いています。例えば、この地域で生産されるワムパムは、貨幣として先住民に普及し、毛皮交易から莫大な富を生み出していました。だが生産できるのはごく一部の先住民にすぎず、その支配をめぐって先住民とイギリス人、オランダ人が争います。
この作者がWilliam and Maryに書いた首切りの論文も非常に優れた論文でお勧めです(Lipman, Andrew. “"A Meanes to Knitt Them Togeather": The Exchange of Body Parts in the Pequot War,” WMQ, 3rd, 65-1, 2006.)




Matthew R. Baher, Storm of the Sea: Indians and Empires in the Atlantic's Age of Sail


こちらはベイハーのStorm of the Sea。メインからノヴァ・スコシアにかけての先住民の海洋軍事力を扱った本です。メインの先住民は18世紀になっても強力な軍事力と交渉力で勢力を保ちますが、その秘密は、彼らがヨーロッパの帆船などの船舶技術をも取り入れて(分取るわけですが・・)、入植者の拠点を攻撃できたことにあるとしています(下の絵を参照)。

実際、この地域の海上、特に沿岸ではイギリスが優位に立てず、海賊退治のためには、先住民に依拠したとのエピソードもあります。やや偏りのある記述のきらいもありますが、これまた先住民のイメージを大きく変える著書です。









2022年7月24日日曜日

マサチューセッツの船乗り、Benjamin Bangsと帝国

 


 森先生から招待いただきました、九大修士2年の高橋と申します。帝国史の観点から海軍強制徴募と初期アメリカの船乗り研究をやっています。どうぞよろしくお願いします。


 先生方、数々の貴重な史料・文献・学会などの情報を紹介下さり、感謝申し上げます。まだまだ勉強不足で、情報集めに四苦八苦しているので大変助かります😂


 さて、私のほうからは史料読解の成果を挙げていければと考えております。現在、修論に向けて船乗りの日記を読んでいるところです。Massachusetts Historical Societyのオンラインカタログから、森先生にご協力いただいてみれるようになった史料です。


Pre-Revolutionary Diaries at the Massachusetts Historical Society, 1635-1790 (masshist.org)


↑この日記集に所収されているベンジャミン・バングス(Benjamin Bangs)という船乗りの日記です。


 Transcript of Benjamin Bangs Diary, 4 volumes, 1742-1762, Ms. N-1797, in Massachusetts Historical Society Pre-Revolutionary Diaries Microfilm P-363, reel 1.19-22; Genealogy of Benjamin Bangs, Massachusetts Historical Society, Boston.


 バングスはマサチューセッツ植民地バーンズダブル郡ハーウィッチに住んでいた白人ピューリタンで、捕鯨や漁業に携わる船のオーナー(祖父や曾祖父も船のキャプテンだった模様)でした。初期ピューリタン(おそらくイングランドからプリマスに移住)の子孫で、墓石(下画像)も残されております。白人の多いマサチューセッツの典型的な多数派だったといえると思います。


(出典 Benjamin Bangs (1721-1769) - Find a Grave Memorial 最終閲覧2022/07/24)


 彼は22歳のときから日記を書き貯め、①1742-49、②1759-61、③1761-63、④1763-65の計4冊が残っています(残念ながら1750-58の期間のものは消息不明)。


 私はいわゆる「第一次帝国」期に関心があるので、①を読み進めているところですが、海軍強制徴募(naval impressment, 史料だとpressやprest, impressedなどの単語で登場する)に関する話が散見されます。


 バングスの史料自体のうち①は船乗りの日常史(Magra 2009)などで引用されてきました。 

    

 最近では、アメリカ独立革命史を帝国史や大西洋史の成果も踏まえて強制徴募と民衆暴力の観点から描き切ったクリストファー・マグラの著作(Magra 2016)で、1747年のボストン反強制徴募暴動やそれ以前の強制徴募の目撃証言の記述が引用されています。

 ↓日記の形式はこんな感じです。

 


 左縦一列に日付が書かれていて、大体1日1~3行ずつのその日の内容が書かれています。日々の風向きや天気、漁業や取引の成果などが多く書かれているので、日記というより航海日誌の側面も強いのですが、本人が冒頭で


「ベンジャミン・バングスの人生に関するメモと端的な記録。自己満足のためにいくつかの報告書と注目すべき出来事も含む。a memorandum or short acc[oun]t of my Life of Benj[ami]n Bangs containing some Transactions and most Remarkables for my own satisfaction」(冒頭2ページ)


と書いているように、フランスの私掠船や強制徴募との遭遇についてや、本国のニュースもときどき書かれています。


 例えば以下の一節。

「私たちはボストンに到着し、激しいホットプレス(緊急強制徴募)を恐れて麦の中に隠れた。We came out and got to Boston & hid in the oats for fear of the press which is very hot.」(1743/10/19, 20)

 ボストンで強制徴募に遭遇しかけたバングスは、船に積んでいたであろう麦の中に隠れています(この前の日に、粉屋と一緒にボストンに向かう予定だと書かれていました)。バングスは1740年代の間に何度もこの強制徴募に関する記述をしておりますが、当時ブリテン帝国を支えた王立海軍のリクルート手段である強制徴募との遭遇が決してまれではなかったことが垣間見えます。


 他にも、船の乗組員として先住民を抱えていたり、1760年代には奴隷貿易に携わっていたりと、マサチューセッツの白人ピューリタンながらも最近のアメリカ史研究でホットな観点から色々分析できそうな面白い史料だと思っています。さらには、宗教史(ニューライトやホィットフィールドに関する記述あり、Winiarski 2017)の文脈でもこの史料の研究が進みつつあるようです。


 マサチューセッツという、古来は「普遍」的なモデルだとされ、グリーンらによってヴァジニアなどとの比較からかえって「特殊」だとされた植民地の中にも、船乗りというミクロレベルの視点を主軸にしつつ、大西洋史や帝国史の観点、さらには人種などの観点から切り込める余地があるのでは…と思って読解を進めております。手稿史料なので文字起こしから始まり大変ですが、今から200年近くも前のひとびとの書いたものを掘り起こしていると思うと感慨深いものがあります。

 未熟な若輩者ですが、ためしに投稿してみました。先行研究の理解や史料分析に関して、浅いところも多いかと思います。なにかお気づきの点がありましたらコメントでご助言等いただけると大変有難いです。

 今後も史料読解の成果の一部を少しずつ投稿してみようかと存じております。

 どうぞよろしくお願いします。


<参考文献>

 Magra, C. P. 2009: The Fisherman's Cause: Atlantic Commerce and Maritime Dimensions of the American Revolution. Cambridge.

   Magra, C. P. 2016: Poseidon's Curse: British Naval Impressment and the Atlantic Origins of the American Revolution, Cambridge.

 Winiarski, D. 2017: Darkness Falls on the Land of Light: Experiencing Religious Awakenings in Eighteenth-Century New England, North Carolina.


 (高橋)

2022年7月22日金曜日

AMERICA 2026


https://www.america2026.eu


独立宣言250周年の2026年が近づいていますが、アメリカだけでなく、ヨーロッパでも250周年プロジェクトが着々と進められています。知り合いのフランス人研究者がシェアしてくれた、America 2026というプロジェクトを紹介します。アメリカのOmohundro InstituteやAmerican Philosophical Societyとも提携しつつ、フランスを中心に西ヨーロッパの研究者たちが共同でシンポジウムなどを組織しているようです。これまでのシンポジウムも、アメリカ革命の史学史や記憶をめぐるものやアメリカとモンテスキューの関係についてなど、興味深いものばかりです。Alan Taylorをはじめとして、登壇者も豪華。日本でも何か形に残るプロジェクトを出来ればよいと思うのですが。(言ってるだけではなくて、お前がやれって言われそうですね。笑)(鰐淵)

2022年7月19日火曜日

クロノン『変貌する大地:インディアンと植民者の環境史』


Twitterでどなたかがアップロードしていたウィリアム・クロノンの名著の表紙が素晴らしい。芸術的かつ的確な表現方法に感激します。この絵は入植者を描かずにイギリス人入植者の設置した柵を描き、かつ手前の元来のニューイングランド(雪で表象)の自然と対比することで「変貌する大地」を表現しているわけです。この本もありがたいことに翻訳されています。

変貌する大地

クロスビー、マクニールも翻訳されており、環境史の基本文献は和書でかなり読めます。

クロノンが描いた先住民の世界の変容を北アメリカの大陸大で描いているのが現在のこの分野の状況と言えるでしょうか。ただクロノンに比べて、現在では、先住民が主体的にヨーロッパ産物資を受容し、サバイバルを図るなかで北アメリカの環境の変容に一定の寄与をしたという歴史像へと変わって来ています。そうした研究の翻訳も欲しいところ。

2022年7月15日金曜日

アイラ・バーリン(落合明子/白川恵子訳)『アメリカの奴隷解放と黒人:百年越しの闘争史』(明石書店、2022年)

 今年出版された初期アメリカの和書において特筆すべきは、バーリンの翻訳『アメリカの奴隷解放と黒人』ではないでしょうか。残念ながらバーリンが2018年に死去したために最後の著作となってしまいましたが、2015年の出版からわずかな期間で読めるという幸運に恵まれたことは、訳者の方々には感謝の念しかありません。

バーリンの研究は、主として奴隷制とそこで生きる黒人の主体的生(とその多様性)を扱ってきましたが(和訳『アメリカの奴隷制と黒人』など。これも名著です)、本書は、奴隷解放の歴史を扱っています。訳者の解説でも書かれているように、本書は実証的な事例研究というよりも、従来の研究を総合した概説です。ところがそこはバーリンで、いわゆる「奴隷主国家」論はもちろんのこと、アラン・テイラーの2013年の The Internal Enemyやフォーナーの2015年のGateway to Freedomなど近年の研究成果もふんだんに取り入れており、最新の黒人奴隷制史、さらにはアンテベラム論に触れることができる点が本書のメリットでしょう。
奴隷解放の歴史像に関する本書の枠組みもバーリン独特であり、その中で個々の新しい事実が生き生きとした意味を持ってきます。すなわち奴隷制廃止は南北戦争とリンカーンの奴隷制廃止という政策で実現したのではなく、黒人、白人の民衆レベルでのアクターが1世紀以上にもわたって、局地的に実践した、数多の運動の結果であるというものです。むろん奴隷制反対に対する奴隷主や北部白人による反発も大きく、本書ではその生々しい様も描かれます(1810年代末にフィラデルフィアで自由黒人の誘拐が頻発していて当局も噛んでいたことなど驚きます)。それゆえに各地の黒人は、請願をし、裁判をし、自分たちを見下す白人の解放論者(しばしば奴隷を所有しました)に協力を依頼し、といった地道な活動を日々行っていました。解放に向かう足取りが鈍い一方で奴隷制度は拡大し、読んでいても、本当に奴隷制が終わるのか心配になってきます。ともあれ個々の反奴隷制アクターと奴隷維持勢力との局地戦と部分的勝利の積み重ねの結果として、奴隷解放は起こったというわけです。なるほど、こうした考え方を取れば、自分がやっている一つ一つの事象にも意味があるのかと勇気ももらえる書物です。
訳者の落合先生が後書きで近年の奴隷解放の研究史も書いていて大変助かりますが、ここでも話はどんどん進んでいるようで困ります。本書は次の研究に向けての大きな地ならしとでも言えるでしょうか。
(森)


2022年7月9日土曜日

独立革命と暴力について

 今年はなかなか物騒な事態が起きますが、少し前から、初期アメリカ史でも政治と暴力がテーマとして取り上げられてきてることも事実です。独立革命・戦争についてもトランプ政権の成立前のAmerican Revolution Reborn(2013)の段階でかなりこの点は話題になっていたので、一過性の現象ではない気がします。私が知る限りでも、次のような本も出ています。

Scars of Independence:America's Violent Birth

Between Sovereignty And Anarchy The Politics of Violence in the American Revolutionary Era

前者はこれでもかと革命時の暴力を生々しく描いていて、読んでいて辛くなります(タールフェザーは全身火傷になると初めて知りました)。後者は特に暴力と革命という主題から史学史的な批判を行い、「フランス革命のように」民衆の実力行使が革命の展開において大きな力を持ったという議論を行います(具体的には宗教の暴力や動員、植民地政府の崩壊といった主題)。先住民との融和を図るイギリス政府・植民地政府に入植者が不信を抱き、暴力で政府を崩壊させていったとするグリフィンの議論が典型でしょう。こうした革命論はなかなか教科書的な公的物語になるのは難しいでしょうが、ヴァジニアのポウハタン戦争以後の植民地時代史を前提に、後のアンテベラム期の激しい民衆暴動を思えば、さもありなんという気もします。この点で時代をつなぐための革命に関する良書は(常に戦っている歴史家!)ウッディ・ホルトンが憲法体制の成立と民衆暴力を扱ったUnruly Americansでしょうか(この本はすごい面白いです)。

https://us.macmillan.com/books/9780809016433/unrulyamericansandtheoriginsoftheconstitution

Unruly Americans and the Origins of the Constitution

(森)

2022年7月3日日曜日

先住民イロコイ(オノンダガ)への領土返却のニュース

 先週末に先住民研究者界隈を賑わせたのは、イロコイ六部族連合の一つオノンダガに元々の領土の一部が返却されるというニュースでした。以下のCNNのニュースでも報じられているように、1000エーカーの土地が戻されますが、これは内務省によれば「国家が先住民に土地を返却した最大のもの」になるとのこと。オノンダガネイションも声明を出しています。

CNNの記事:歴史的合意でオノンダガが1000エーカーのNYの森林地を回復

https://www.onondaganation.org/uncategorized/2022/land_back_1023_acres/


この土地は電子機器製品製造会社のハネウェルが所有していましたが、河川と湖の工業汚染を引き起こしました。ハネウェルに対し合衆国魚類野生生物局とNY州環境保護局は汚染除去と現状復帰を求めます。その交渉の結果、元来の所有者であったオノンダガに返却することになったわけです。CNNの記事では書いていませんが、オノンダガの声明では、当局が部族の意見を聞いたとあり、オノンダガも何らかの形で交渉に加わっていた可能性は高いと言えるでしょう。今回の決定では、新しく環境保護の主体として先住民を位置付けています。

イロコイ部族連合が領土を失うのは、本日が記念日であるアメリカ独立を契機としています。イギリス領であった時代は、北米におけるイギリス帝国の最大のパートナーとして、収奪の矛先が向けられることは僅かでした(その代わりイロコイは他の部族の土地を大規模に売ります)。1783年のアメリカ独立後、州の負債を償却し、経済を繁栄させるためにNY州政府、とりわけ知事のクリントンが目を向けたのが州の西北部の大半を占めるイロコイ領でした。実はNYは開拓地としては規模の小さな植民地で(人口は独立時に6番目)、クリントンはイロコイの土地に自営農民を入植させ、開拓地と人口の増加を目指したのです。イロコイは、独立戦争で多くがイギリス側についたために弱体化しており、「賠償」を求める州の圧力には弱い立場でした。さらに州は連合の各部族、さらに部族内の弱い立場の指導者と交渉し、次々に大規模に土地を買収します(1785年の条約だけで46万エーカー)。連合会議はこうしたNYのやり方に批判的でしたが、周知の通り権限がほとんどなく指を咥えて眺めるしかありませんでした。すでに1790年にはイロコイ部族連合のほとんどの土地はNY州へと割譲されました。

憲法制定後の1790年に制定された「先住民通商交易法」は、先住民との土地取引を連邦政府のみに制限しました。しかし連邦政府が主に法規制の対象としたのは、売却して連邦政府に収益がもたらされ、かつ外国の介入が不安視される北西部と南西部の領土(特にイギリス割譲地)であり、NY州内のイロコイ領には介入を控えます。こうしてさらに買収が進み、1800年になるまでにはイロコイ領に残った土地は、独立戦争前のわずか4%にすぎませんでした。



この時イロコイが失った領土の規模に比べれば、今回の返却は雀の涙にすらならない規模です。ただ歴史は一方向にのみ進むのではなく、環境保護のような新たな価値意識の台頭やアクターの活動が功を奏すれば、異なる方向もあり得ることを示しているのかもしれません。

以上のイロコイとNYの関係史については、アラン・テイラーの名著The Divided Groundが詳しく論じていますのでご参照ください。(森)

https://www.penguinrandomhouse.com/books/176725/the-divided-ground-by-alan-taylor/

2022年6月30日木曜日

最高裁判決と文明化五部族

 ここ一週間でアメリカの最高裁判決が物議をかもしています。あまり一般メディアに出ていませんが、昨日大きな判断が下されています。先住民の国家内(保留地内)で非先住民が先住民に犯罪行為を行った場合、州に司法権があるとするもので、先住民諸部族国家は自治権の侵害に当たるとして、大きく反発しています。ここのところ先住民の自治権が実質的に縮小の方向に向かう(連邦と州の権限拡大)方向にあると言われていますが、それを証明するかのような判断で、先住民諸部族もすぐに反発のステートメントを出しています(HPを見るとわかるように、諸部族は自らを主権sovereignと呼んでいます。これは先住民部族国家が州とは異なる法を持つ根拠であり、カジノを経営できる法的基盤でもあります)。

興味深いのは、チェロキー、チョクトー、チカソー、セミノール、マスコギー(かつてのクリーク)の、いわゆる「文明化五部族」が連名で批判の声明を出している点です。19世紀初頭の南部の領土拡大を生き延びるため、この5部族は農耕や憲法体制の採用など「文明化」の道を選択し、こう呼ばれました(黒人奴隷制も導入しました)。1830年代以後には強制移住でオクラホマに追いやられますが、その後も部族国家を維持し続けます。いつごろから「文明化五部族」として政治的な立場を表明し始めたのかは不明ですが、次の選挙でトランプ派のオクラホマ州上院議員候補を批判するなど、5部族はここのところ積極的に協調して政治的立場を表明しています。「文明化五部族」と言いながらも、当時は強制移住には協力して対抗できず、また部族内部でも対立が繰り返されました。時代をこえて新しい連携が生まれてくるのか注目です。 (森)



2022年6月29日水曜日

西部から見た独立革命(来年のOAHパネル)

OAHの年次大会では初期アメリカは少ないですが、来年のOAH年次大会のセッションでこのようなパネルが開催されるようです。

Title

"Human Events:" Seeing American Revolutions from the West

Abstract

This roundtable brings together colleagues from fields including history, archaeology,museum curation and theater, representing the Autry Museum of the American West and theUSC-Huntington Early Modern Studies Institute. We are currently collaborating on an initiativeto consider the 250th anniversary of the Declaration of Independence in light of a much longer, multidirectional timeline, taking a distinctive and potentially disruptive viewpoint from Los Angeles and the southwest. The initiative will encompass the opening of a new coregallery at the Autry, a series of public and scholarly programs and symposia organized chiefly by EMSI, and an array of publications. The session may be held at the Autry Museum of the American West.

Participants

Dr. Virginia J. Scharff

Professor Carolyn E Brucken

Professor Stephen A. Aron

Dr. Alice Lucile Baumgartner

Professor William Francis Deverell

Professor Steven William Hackel UC Riverside

Ms. Karimah Richardson

Ms. Martinez Nicole

2022年6月26日日曜日

ヴァジニア植民地の史料

 公文書の一次史料という点で最も充実しているのはヴァジニアではないかと思います。エドモンド・モーガン、キャサリン・M・ブラウンをはじめ、これまで多くの植民地時代を代表する研究がヴァジニアを対象に行われてきたのも史料の豊富さが裏付けとなっているでしょう。

ヴァジニア会社の史料も豊富ですが、王領化されて以後の行政・議会文書もしっかりしています。鰐淵さんが挙げたように法律も活字化されています。中央政府の史料は、参事会と代議会の史料があり、19世紀に活字化されましたが、現在ではいずれもオンライン化されています。

参事会史料:行政

https://onlinebooks.library.upenn.edu/webbin/book/lookupid?key=olbp65003

参事会史料:立法

https://archive.org/search.php?query=legislative%20journal%20council%20of%20colonial%20Virginia

代議会史料

https://onlinebooks.library.upenn.edu/webbin/book/browse?type=title&index=802989&key=journals%20of%20the%20house%20of%20burgesses%20of%20virginia%201619%201776&c=x

このうち、代議会はマサチューセッツと同じく項目だけの簡素な記述で情報量は決して多くないです。他方で充実しているのは参事会史料の行政文書。これはすごいです。参事会は行政機構だっただけでなく、土地のグラントなど総督が握る権限についても参事会に諮問せねばならないので、結果として防衛から土地配分までほとんどの中央行政の情報が参事会に集まります。

またヴァジニアの場合、私が知っているだけでも以下のように、請願や地方行政などの情報を集めた史料集がいくつも刊行されており、これもヴァジニアの研究に適したところです。

Historical Collection of Virginia

もう一つ言えば、ヴァジニアの有益な点は郡の史料も残存していて、かつ編纂されており、社会史・地方史レベルのミクロな研究が可能なことです。他の植民地では地方史料はどのような形で保存されているのかわかりませんが、ヴァジニアでは州立図書館に集中的に所蔵されていて、日本の大学図書館を通じて貸借もできます。私はかつてサリー郡のマイクロフィルムの史料を借りました(Surry County, Virginia, Deeds, Wills, Etc., Virginia State Library)。こうした地方史料はしばしば活字にもなっており、貴重な裁判史料にアクセスすることも可能です。

アコマック郡(Family Searchでは閲覧可能)

https://books.google.co.jp/books/about/County_Court_Records_of_Accomack_Northam.html?id=xvNOAQAAIAAJ&redir_esc=y

その他の郡についてもVirginia Colonial Abstract としてかなりあります。芳賀さんがノーザンバーランド郡の裁判史料と行政文書を使って奉公人の解放裁判に関する論文を書かれましたが、日本でもミクロな研究が可能なのはこうした状況によるでしょう。まさにヴァジニアは宝庫。

https://discover.hsp.org/Search/Results?lookfor=%22Virginia+colonial+abstracts+%3B%22&type=Series



2022年6月22日水曜日

植民地時代の法令集 Statutes at Large

森先生がニューヨークやマサチューセッツの政府史料のソースを挙げているので、補足として植民地時代の法令集(Statutes at Large)について紹介したいと思います。Statutes at Largeは法律の全文が各年の会期毎にまとめられたもので、議会や参事会で議論された法律の条文を確認することができます。例えば、有名なヴァジニアの1661年のSlave codesのような、奴隷制に関する法律もここに含まれます。自分のフィールドであるペンシルヴァニアのものはありがたいことに最近オンライン化され、植民地時代の全セッションをブラウズすることもサーチすることもできるようになりました。

https://www.palrb.gov/Preservation

ちょっと調べてみると、マサチューセッツは1692年以降のものが整理されており、オンライン化されています。それ以前の特許状など関連するものは下のリンクから。

https://www.mass.gov/service-details/massachusetts-acts-and-resolves

https://www.mass.gov/info-details/massachusetts-historical-legal-documents-and-laws

ヴァジニアもオンライン化されています。Google Books等でダウンロードもできるようです。

http://www.vagenweb.org/hening/

それ以外の植民地も調べたい人は、ちょっと見にくいですが、以下のサイトから始めるとよいと思います。

https://libguides.bgsu.edu/c.php?g=227233&p=1506227

(鰐淵)

2022年6月18日土曜日

植民地時代ニューヨークの史料

 イギリス領植民地の公文書は、各植民地で編纂の仕方も残存状況も別々です。研究を進める際にはそれぞれの状況を知っておくと便利です。例えば、マサチューセッツの場合、上記のように代議会史料は活字版がありますが、参事会はなく、Mass Archivesの手稿文書に当たらなければなりません。また代議会も審議項目が掲載されているだけなので、議論はほとんどわかりません(この植民地は牧師の説教はやたらに残っているのに…)。こうした状況が植民地でバラバラなのです。メリーランドやニューハンプシャーのように多様な行政文書がごったにまとめられている場合もありますし、ペンシルヴァニアのように整然と参事会と代議会をシリーズに分けて編纂している場合もあります。ここではニューヨークの公文書についてメモしておきます。

ニューヨークの公文書は基本的にO'Callaghanを中心に19世紀に編纂された2系統の史料に分かれます。一つはDocuments Relative to the Colonial History of the State of New-Yorkで、主に本国政府との植民地政府の往復書簡です。ニューヨークに関わるフランス文書やオランダ文書も翻訳されて掲載されているのも特徴です。








現在はオンラインで閲覧−ダウンロード可能です。

https://onlinebooks.library.upenn.edu/webbin/book/lookupid?key=olbp69764

もう一方は、Documentary History of the State of New Yorkのシリーズで、こちらの内容はほとんど統一性がありません。一巻だけとっても、先住民、遠征報告、地域の調査など様々です。ただこちらは上記に比べても貴重な文書が収録されているので(先住民関連も多いです)、探せば役に立つものがあるかもしれません。こちらもオンラインで閲覧−ダウンロード可能です(Vol. 1のみ載せます)。

https://archive.org/search.php?query=Documentary%20history%20%20colonial%20new%20york

ニューヨークの公文書の問題は、議会史料が乏しいことです。参事会議事録は活字化され、オンライン化もされていますが、内容がすごく薄いのが特徴で、Documents Relative to the Colonial History of the State of New-Yorkを見れば内容はわかります(NYは総督が参事会を選任し、総督の権限が強かったことも理由でしょう)。https://archive.org/details/journaloflegisla02newy

代議会については活字化もされていません。ただし同時代に印刷されたものがまとめられてECCOから出版されています。これは財務報告も含んだかなりしっかりした史料なので、有用です。興味ある人は言ってください。(森)





2022年6月15日水曜日

University of North Carolina Pressのセール

 University of North Carolina Pressが創業100周年ということで大型セールをやっています(https://uncpress.org/anniversary-sale/)。全商品4割引で、アメリカ国内は無料配送というなかなかのセール。とはいえアメリカ国外は送料が最初10ドル、以下一冊ごとに6ドル以上かかるし、なおかつ円安なので、結局、割引分は相殺でしょう。Amazonの洋書も狂ったように送料が上がっていて、苦しいです。まずは初期アメリカ分野のカタログを見て楽しむのがいいかも。知らない本が出まくっていてキリがない。

https://uncpress.org/search-results/?category=UNCCREEAH



これはペンシルヴァニアの先住民外交に関する大学生向けのアクティブラーニングの教科書のよう。七年戦争時の先住民との戦争をペンシルヴァニアがどのように外交で終息させたかを会合や条約など複数の史料を読みながら再現する、と。複数の言語、文化、感情、利害が絡む先住民外交史上に残る名場面。面白い授業になりそう。初期アメリカ関係でシリーズ化されているみたいです。

2022年6月13日月曜日

Creek Internationalism in an Age of Revolution, 1763-1818

来月出る本。クリークがヨーロッパ外交を展開し、国際承認を受けて独立国の地位を得て、領土の保持を図ろうとしていた、と。うーむ興味深い。先日の初期アメリカ分科会の内容の前史ですね。

https://www.nebraskapress.unl.edu/nebraska/9781496215185/

Creek Internationalism in an Age of Revolution, 1763–1818


文書館予約はお早めに

この夏は調査だという方もおられるでしょうか。

お目当ての文書館の予約は早めが良いです。今はまだコロナ対応で席数が限られているところがあります、要確認。

ニューヨークですと、NY Historical SocietyとコロンビアのRare Book Manuscript Libraryは混み合っています。 調査が近づいてからあわてるのは愚かな私だけかもしれませんが、ご参考までに。(松原)

2022年6月12日日曜日

Early American Indian documents : treaties and laws, 1607-1789

 植民地時代−革命期の先住民−ヨーロッパ人外交に関して、非常に有用な史料集はEarly American Indian documents : treaties and laws, 1607-1789です。以下のように植民地ごとに先住民との条約が収録されています。それだけでなく、この史料集が充実しているのは、複数の史料集から条約に関連した史料が転載されている点です。例えば下の図は、アベナキとイギリスの条約会合に同席していたフランス人宣教師がフランスに報告しているもので、Jesuit Relatiosという有名なイエズス会史料集からの転載です。イギリス側史料ではアベナキは素直に従っているのに対して、ここではアベナキがイギリス側に「(自分達の意志を認めないなら)ここから出ていけ」と言ったと書かれています。したがって、条約成立の経緯や複数の見方を知ることができます。同時にこうした関連史料についても編者が解説している点が有用性の高さの一つです。

ただし、さほど出版が古くないにも関わらず、絶版になってしまい、日本国内の所蔵もごく一部です。幸運なことに、Internet Archiveで公開しています(ただし、登録して貸し出しをせねば見られません)。興味ある方は是非どうぞ。

https://archive.org/details/earlyamericanind0005unse

Vol 1: Pennsylvania and Delaware treaties, 1629-1737 edited by Donald H Kent --
Vol 2: Pennsylvania treaties, 1737-1756 edited by Donald H Kent --
Vol 4: Virginia treaties, 1607-1722 edited by W Stitt Robinson --
Vol 5: Virginia Treaties, 1723-1775 edited by W Stitt Robinson --
Vol 6: Maryland Treaties, 1632-1775 edited by W Stitt Robinson --
Vol 7: New York and New Jersey Treaties, 1609-1682 edited by Barbara Graymont --
Vol. 8: New York and New Jersey treaties, 1683-1713 edited by Barbara Graymont --
Vol. 9: New York and New Jersey treaties, 1714-1753 edited by Barbara Graymont --
Vol. 10: New York and New Jersey treaties, 1754-1775 edited by Barbara Graymont --
Vol. 11: Georgia Treaties 1733-1763 edited by John T. Juricek --
Vol. 12: Georgia and Florida treaties, 1763-1776 edited by John T. Juricek --
Vol. 13: North and South Carolina treaties, 1654-1756 edited by W. Stitt Robinson --
Vol. 14: North and South Carolina treaties, 1756-1775 edited by W. Stitt Robinson --
Vol. 14: North and South Carolina treaties, 1756-1775 edited by W. Stitt Robinson --
Vol. 15: Virginia and Maryland laws edited by Alden T. Vaughan and Deborah A. Rosen --
Vol. 16: Carolina and Georgia laws edited by Alden T. Vaughan and Deborah A. Rosen --
Vol. 17: New England and Middle Atlantic laws edited by Alden T. Vaughan and Deborah A. Rosen --
Vol. 18: Revolution and confederation edited by Colin G. Calloway --
Vol. 19: New England treaties, Southeast, 1524-1761 edited by Daniel R. Mandell --
Vol. 20: New England treaties, North and West, 1650-1776.

2022年6月10日金曜日

The Writings of James Monroe

Founders Onlineを挙げて下さったので、そのメンバーに入っていないJames Monroeのオンラインで読める史料として、以下、The Writings of James MonroeのURLになります。(HathiTrustにもありますが、そちらは限定公開)

I. 1778-1794
 https://archive.org/details/writingsjamesmo03unkngoog/
II. 1794-1796.
 https://archive.org/details/writingsofjamesm015856mbp/
III. 1796-1802.
 https://archive.org/details/writingsjamesmo09monrgoog/
IV. 1803-1806.
 https://archive.org/details/writingsjamesmo03monrgoog/
V. 1807-1816.
 https://archive.org/details/writingsjamesmo00unkngoog/
VI. 1817-1823.
 https://archive.org/details/writingsjamesmo08monrgoog/
VII. 1824-1831
 https://archive.org/details/writingsjamesmo05monrgoog/

検索するのは簡単なのですが、どのファイルがどの巻かわかりづらいのでリストにしておきます。
2000年代以降にThe Papers of James MonroeシリーズがGreenwood社より刊行されていますが、The Writings of James Monroeとは掲載史料が異なります。
https://academics.umw.edu/jamesmonroepapers/publications/publishedcorrespondence/

(遠藤)

アレクザンダー・ハミルトンの少年時代の足どり

「建国の父たち」の中でも、特に雄弁で活力に満ちていたハミルトンですが、彼が少年時代を過ごした西インド諸島での日々は、ハミルトン自身も口を閉ざしがちで、ネイヴィス島で生まれたらしいということ以外は、はっきりとしたことは近年まで分からないことが多かったのです。

彼の少年時代の記録が意外(?)なところから不完全ながら辿れるようになりました。

ハーグのDutch National Archivesに少年時代の彼の家族の納税記録が発見され、それをつなぎ合わせていくと、St. Kitts、St.Eustatius、St.Croixなど西インド諸島の島々でのハミルトンの足どり、一緒に過ごしていた家族の諸事情(ハミルトンの伝記で欠けていたピース)が埋まり始めました。

オランダでのアーカイブス・ワークの成果をまとめたものとして手に入りやすいのは、下記の文献です。

Michael Newton, Discovering Hamilton: New Discoveries in the Lives of Alexander Hamilton, His Family, Friends, and Colleagues From Various Archives Around the World (Phoenix: Eleftheria Publishing, 2019)

また、本研究に触発された論文としては下記があります。入手しやすいように書籍に収録されたものを紹介します。

Ruud Stelten and Alexander Hinton,  “Alexander Hamilton's Missing Yearns: New Insights into the Little Lion's Caribbean Childhood,” Don N. Hgist, ed., Journal of The American Revolution: Annual Volume 2021 (Yardley, Penn.: Westholm Publishing, LLC, 2021), 1-10.

これらの研究には、単に少年時代のハミルトンの足取りにより接近できるという以上の示唆があります。それは、これまで「建国の父たち」の多くがアメリカ大陸に根を張っていた名望家たちだったのに対して、ハミルトンは「境界域の人」だったという認識が改まるところにあるように思われます。西インド諸島の島々は、環大西洋世界における国際政治の最前線であり、文化・思想の先端であったということです。近年の初期アメリカ研究の潮流から、「建国の父たち」を再検討するのは可能であるし、より豊かな視野を与えてくれるように考えます。(石川)




Founders Online

普段の研究で重宝していたのが、Yale University Pressがオープンアクセス化していたThe Papers of Benjamin Franklinのオンライン版(https://franklinpapers.yale.edu)ですが、現在はNational Archives管轄下のこちらにいつの間にか移行していたようです。

https://founders.archives.gov

こちらはすごい!規模も質も大幅に向上しているようです。まず、フランクリンだけではなく、ジョージ・ワシントン、ジョン・アダムズ、トマス・ジェファソン、アレグザンダー・ハミルトン、ジョン・ジェイ、ジェイムズ・マディソンの7名の建国の父の、現在最も信頼できる全集や著作集がクロス検索できるようになっています。Franklin Papersについては、以前のオンライン版では校訂注が見られなかったのですが、Founders Online版では見られるようになっています。わざわざ紙版の全集に当たる必要がなくなってしまった。。。

初期アメリカ史は森先生が紹介している州のアーカイブスも含めて、オープンアクセスのアーカイブスがどんどん増えている(かつ内容もどんどんアップデートされる)ので、こういった場でちょこちょこと気づいたものを紹介できると良いですね。

投稿の練習も兼ねての初投稿でした。(鰐淵)

2022年6月9日木曜日

McNeil Center seminars 研究会案内2

言わずと知れたペンシルヴェニア大McNeil CenterのFriday seminars。当分ハイブリッドでやってくれそうですが、時差がちょっときついです。

それでもこのMcNeil Centerはすばらしい環境でした。ポスドク・フェローを10人以上かかえて、いつも活気のある議論になります。院生さん向けのブラウンバッグ・セミナーもあり、Zoomが普及した今ならこれも真似したいと思いました。(松原)

Brett Rushfordについて

私がTwitterでフォロー中の Brett Rushfordは最近の初期アメリカ史のリーディングヒストリアンの一人で、そして近年の初期アメリカ史の傾向の象徴的存在です。 フランス領カナダにおける奴隷制を介した先住民とフランス人の関係史で非常に優れた研究をして脚光を浴びましたがhttps://www.goodreads.com/book/show/13790947-bonds-of-alliance、最近はカリブの島マルティニクの逃亡奴隷と奴隷反乱の研究をやってます。https://oieahc-cf.wm.edu/wmq/Jan19/abstracts.html

実際、こうした研究者が増えていて、例えば、独立革命期ヴァジニアの軍事動員について極めて優れた研究をしたMichael Macdonnell(珍しくニュージーランドの人)は、最近は中西部の先住民について、これまた新しいタイプの研究をやって注目を浴びていますhttps://www.michaelamcdonnell.org/masters-of-empire

先住民−ヨーロッパ人関係史の大家Eric Hinderakerも最近は大西洋史から見るボストン虐殺の研究をしてるし。こうしたVastな初期アメリカ史に多方面から切り込む人が目立ちます(かつてはニューイングランドとヴァジニアの両方という研究者が多かったです。ベイリンもモーガンもブリーンも)。面白い傾向だけど、もうフォローするのすら大変。イギリス人の植民地の発展だけやっていた昔を懐かしむ人がいるのもわかる気がします(それを主張すると叩かれるし…)(森)


2022年6月7日火曜日

研究会案内1

The Seminar on Early American History and Culture@Columbia University

コロンビアのHannah FarberとCUNYのJohn Blantonとが世話人の月例研究会。

コロナ禍を経て、いまはハイブリッド型で運営されています。冬時間になれば日本からも朝7時台に参加可能。小さな研究会でじっくり話ができます。

(以上、投稿の練習を兼ねて。松原)

初期アメリカ史関係の雑誌リンク

 初期アメリカ史関係の雑誌リンクをまとめておきます(最近増えた気がします。追いかけるのが大変・・・)。リンクにも載せています。しかし国内に所蔵大学がない雑誌も多い現状はどうしたものか。

Journal of Early American History

https://brill.com/view/journals/jeah/jeah-overview.xml

William and Mary Quarterly

https://oieahc.wm.edu/publications/wmq/

Early American Studies

https://eas.pennpress.org/home/

Journal of Early Republic

https://jer.pennpress.org/home/


2022年6月6日月曜日

17-18世紀のボストン市の史料

 オープンリソースのボストン史の史料をまとめています。議事録なので情報は必ずしも多くないですが、タウンミーティング議事、人事まで幅広く記録されています。課税者名簿、救貧行政、防衛、治安などの情報も多くて独立前の都市社会史の研究に使えると思います。https://fukuoka-u.box.com/s/zxecvsviwjz465qizy68pbhah3deodi7

西京高校授業:海賊と植民地アメリカ

 1月に山口県立西京高校の歴史の先生のオンライン授業でコメントをした際のパワポです。レディカーは海賊の出自や経験を特定の階層に求めるけど、「大西洋の向こう」は、海賊/民間船の私掠、兵士/民間人、合法/非合法、被害者/加害者といった境界線はしばしば揺らぐ場所ではないかという内容。

https://docs.google.com/presentation/d/1zpthDqDxnJt6kD-eOclkFOKe3lcp0vcx/edit?usp=sharing&ouid=113242651500869917444&rtpof=true&sd=true

これは戦時中マサチューセッツは民間人なら誰でもインディアンを殺して報奨金を出すという法律。民間人も兵士=殺人者になることを許可されている。だからこそハナ・ダンストンのような女性のインディアン虐殺者が英雄になるわけで。





Mori

昨年の非国家地域の外交研究会報告レジュメ(「「同盟」と「臣従」のあいだ」)

昨年、非国家地域の外交研究会で行った森の報告レジュメと資料です。オンラインだったので反応がよくわからないまま・・・。

https://docs.google.com/document/d/14_Y6bB9P8ug3fvuC6wd9sU2rVHBQjDoO/edit?usp=sharing&ouid=113242651500869917444&rtpof=true&sd=true

https://docs.google.com/presentation/d/1Fgf6KRddj_MDCErw30pxY_pIw2-h1mtX/edit?usp=sharing&ouid=113242651500869917444&rtpof=true&sd=true

Journal of House of Representatives

 マサチューセッツは代議会の議事録は活字化されていましたが、現在は絶版です。幸い、以下のサイトで閲覧ができます(ダウンロードは大きく制限されています)。ただし1715年以前は火災などで喪失してしまっています(一定期間までは下記のCSPCに掲載されています)。とはいえ、マサチューセッツの政治・行政の基礎史料であることは間違いありません。

https://catalog.hathitrust.org/Record/000532438

Massachusetts Archives Collection

 マサチューセッツ州立文書館に所蔵されている植民地時代−革命期の政府史料は数年前から全面的にデータベース化されています。以前は現地に行かなければならなかった史料に簡単にアクセスできるようになりました(数ヶ月間、写真を撮ってデータを集めたあの苦労はなんだったのか・・)。総督の布告、参事会議事録、裁判、政府に集まった情報、軍事遠征の報告などなど、無数の情報があり、宝の山です。リンクをたどると他の史料も豊富に掲載されています。

▷1699年のインディアン蜂起陰謀の情報を密告する総督宛の手紙


Family Serchの登録が必要。

https://www.familysearch.org/en/wiki/Massachusetts_Archives_Collection