2022年8月11日木曜日

文献:先住民と海の歴史

 高橋さんが船乗りの史料と新しい文献をご紹介してくださって大変に有益で、依然として海の歴史は盛んな領域だとわかります。猛暑の中、海の歴史を考えると多少涼しくなるような・・・

先住民関係でも、ここ数年で何冊か先住民と海洋世界に関する本が出されています。従来から捕鯨に関しては研究がありましたが、特に北東部の先住民が盛んな沿岸通商を行なっていたり、海上で軍事力を行使していたことが明らかになっています。ニューイングランドでは、17世紀までには、寒冷で穀物の取れない最北端(現在カナダの)ペノボスコットの先住民とNE南部の先住民の間で毛皮と穀物を交換する地域間分業も成立していました。他方、ノヴァ・スコシアのミクマクはメインの先住民を攻撃し、壊滅に追い込んでいます。

下記の本は、そうした先住民の世界にピューリタンは入って来たと想定して、従来の歴史像を見直すものです。

Andrew Lipman, The Saltwater Frontier: Indians and the Contest for the American Coast 



リップマンのThe Saltwater Frontierは、NE南部における通商と漁業を中心とする先住民の海洋活動とヨーロッパの進出を扱う地域史。「フロンティア」という言葉も、複数の文化の接触や対立をの場を意味していて、先住民間/ヨーロッパ人間の複雑な関係性を描いています。例えば、この地域で生産されるワムパムは、貨幣として先住民に普及し、毛皮交易から莫大な富を生み出していました。だが生産できるのはごく一部の先住民にすぎず、その支配をめぐって先住民とイギリス人、オランダ人が争います。
この作者がWilliam and Maryに書いた首切りの論文も非常に優れた論文でお勧めです(Lipman, Andrew. “"A Meanes to Knitt Them Togeather": The Exchange of Body Parts in the Pequot War,” WMQ, 3rd, 65-1, 2006.)




Matthew R. Baher, Storm of the Sea: Indians and Empires in the Atlantic's Age of Sail


こちらはベイハーのStorm of the Sea。メインからノヴァ・スコシアにかけての先住民の海洋軍事力を扱った本です。メインの先住民は18世紀になっても強力な軍事力と交渉力で勢力を保ちますが、その秘密は、彼らがヨーロッパの帆船などの船舶技術をも取り入れて(分取るわけですが・・)、入植者の拠点を攻撃できたことにあるとしています(下の絵を参照)。

実際、この地域の海上、特に沿岸ではイギリスが優位に立てず、海賊退治のためには、先住民に依拠したとのエピソードもあります。やや偏りのある記述のきらいもありますが、これまた先住民のイメージを大きく変える著書です。









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