2023年12月11日月曜日

英文書館デジタルアーカイヴズ/大西洋史関連の史料

 

 皆様

 ご無沙汰しております、高橋毅です。大変遅ればせながら、無事大学院を修了しました。現在は福岡市内で私立中高の非常勤をしながら、細々と研究を続けております。修士論文はMassachusetts行政の手稿史料や新聞、船乗りの日記などを組み合わせて、1740年代のボストンで実施された海軍強制徴募をめぐる諸アクターのせめぎ合いの実態を再構築しようと試みました。今後、修論の内容を少しずつ論文化していきます(近々、初論文が森丈夫先生の論文と同じ特集で掲載予定です)。先生方の御目に留まることがあれば、身に余る光栄に存じます。

 さて標題の件ですが、強制徴募関連の史料を調べていて偶然発見しました。全てではなさそうですが、一部はマイクロフィルムをデータで閲覧できました。例えばMuster Books(船員徴集簿)の一部が見れます。すでにご存知かもしれませんが、お役に立てれば幸いです。ほとんどの史料は課金・取り寄せが必要なものの、時々無料で閲覧できるものが紛れています。

https://www.nationalarchives.gov.uk/help-with-your-research/research-guides/free-online-records-digital-microfilm/

 ここで一つ、史料の概要とそれをめぐる議論を紹介します。上記のMuster Booksは、海軍強制徴募研究において、イギリスの学会に軸足を置く海軍行政史家(例えばN. A. M. Roger)によって重宝されてきた史料です。各艦に入隊した船員の名前、出身地、技能レベルなどが記載されています。これに関して有名な批判として、アメリカの学会に軸足を置く研究者の影響を受け民衆暴動史の成果を重視する研究者(Nicholas Rogers)によるものが挙げられます。Rogersは、志願兵として入隊した船乗りたちが、実際は強制徴募されたにも関わらず志願兵として登録されていた例も多々あったことから、Muster Booksは史料として不十分(強制徴募の社会的インパクトを評価するには不十分)だと激しく批判しています。がしかし最近では、統計的なアプローチをとる研究者(J. R. Dancy)は、各々の研究者が別々の史料を用いて異なる見解を示しているため、相互補完的に歴史像を紡ぐ必要性を主張しています。


            VICTORY号のMuster Bookの一部(ADM 36より)

 強制徴募研究といえばDenver Brunsmanによる大著が有名ですが、確かに彼は制度史と民衆暴動史のアプローチを折衷することで諸研究をまとめた見解を提示することに成功しているものの、Dancyなどイギリスの海軍行政史家が用いた統計的アプローチを十分に取り込めているとはいえません。しかし全ての史料を一人で見るには限界があるので、国民国家的枠組みにとらわれない大西洋史研究の進展のためにも、よりデジタル化が進んでほしいところです。

 高橋毅 拝

参考文献

 Brunsman, D. A. (2013). The evil necessity: British naval impressment in the eighteenth-century Atlantic world. University of Virginia Press.

 Dancy, J. R. (2018). Sources and methods in the British impressment debate. International Journal of Maritime History30(4), 733-746.

 Rogers, N. (2018). British impressment and its discontents. International Journal of Maritime History30(1), 52-73.

2023年4月4日火曜日

史料:The William Blathwayt papers, 1661-1722

 久しぶりの更新です。検索していたらかなり貴重な史料がオンライン化されていたのを発見したので、掲載します。表題にも載せたWilliam Blathwayt papersは、17世紀末から18世紀にかけてのイギリス領植民地からの本国政府への報告を大量に所蔵しています。

Blathwaytは1686年から枢密院の通商外交委員会の書記secretaryを務め、人事の差配を含め、実質的に植民地行政を牛耳った人物です。この時代のイギリス政府内には、植民地の事情を知る人物はほとんどおらず、Blathwaytは名誉革命後も失脚することなく、植民地行政において大きな影響力を発揮し続けます(ちなみに同じことは、革命で倒されたジェイムズ治世下の全ての植民地官僚についても言えていて、ボストンやNYでは多くの役人が植民地人によって逮捕されることは概説に載っていますが、ほとんど他の植民地で官僚に復職しています。マサチューセッツで憎まれたアンドロスはヴァジニアの総督になっています)。その結果として帝国の行政文書の多くが、彼の個人資産として所蔵されたわけです。

この一連の文書は、マイクロとしては各地の文書館に所蔵されていましたが(洋書屋でも販売)、Family Searchでデータ化されています。登録すれば無料なので、こんなありがたいことはありません。https://www.familysearch.org/search/catalog/502462?availability=Family%20History%20Library

17世紀末から18世紀初頭の植民地行政や植民地内の政治、帝国論などに興味ある方には非常に役に立つでしょう。各巻の大まかなインデックスは以下ですが、より細かい内容については、1巻の後ろに目次があるので、それを参照してください。

https://ead.lib.virginia.edu/vivaxtf/view?docId=cw/viwc00271.xml

オンライン史料はすごい状況になっているようです。Family Searchだけでも以前マイクロになっていたものは、オンライン化されているようです。発見次第できるだけ掲載していきます。

2023年2月2日木曜日

『改革が作ったアメリカ 初期アメリカ研究の展開』

 このブログの関係者はみな執筆や編集で関わっていますが、どこかで一般の方の目に映るかもしれないと思い、記事にします。

3月半ばに『改革が作ったアメリカ 初期アメリカ研究の展開』が小鳥遊書房から出版されます。本書は初期アメリカ学会のメンバーが製作した研究書で、歴史と文学の研究者が最新の研究成果を発表しています。こうした研究書にしては珍しく、コラムも充実。またもやコラムの方が面白い本にならなければいいのですが。目次を見る限り、充実した本のようです。

https://www.tkns-shobou.co.jp/books/view/514